科学的根拠と根拠の違いはあるの!

 昨日の補足という形で、今回もいわゆる科学的根拠といわれているものについて少しお話しします。昨日の記事を読まれてない方は、昨日の記事を読まれてから、本日の記事を読まれることをお薦めします。


 さて、昨日の記事を読まれた方は、もう気付いているかもしれません。


 そうです。科学的根拠とは根拠という意味と殆ど同じ意味なのです。誤解を恐れずに言えば、科学的根拠とは、あくまで科学の分野における根拠に過ぎないのであって、科学的という言葉が枕詞として付くか付かないかは問題ではないのです。


 ちなみに、科学分野に従事している人々は「科学的根拠」という言葉を、多くの場合、使用しません。「根拠」はただの「根拠」です。英語では、「根拠」のことを「エビデンス(Evidence)」と言いますが、「Scientific Evidence」という表現はあまり使用されていません。例えば、BSE牛海綿状脳症)の検査の際に、「米農務長官が全頭検査の必要性に科学的根拠がないと述べた」などと、日本の大手既成マスメディアは報道しましたが、実際には米農務長官は、「エビデンス(Evidence)がない」と述べたのであって、「科学的根拠(Scientific Evidence)がない」とは述べていません。


 うがった見方をすると、次のように感じることもあります。


 「根拠」の程度が弱くて、それを誇張する必要がある場合に、誇張の枕詞として、「科学的」という言葉を付けてしまっているのではないか。


 自然科学分野での研究結果の評価法として、唯一最も確立された方法は、統計学的分析です。言葉を大切にし、正確な意思疎通をしたいのであれば、科学的根拠という言葉を使用しない方が賢明でしょう。統計学的根拠という言葉を使う方が、まだマシかもしれません。


 いずれにせよ、昨日の記事で述べたように、


 自然科学研究によって出される事実とは、研究方法とその生データ(結果)なのであって、結論ではありません。科学論文の結論でさえ、筆者の主観が入ることはあり得ることであります。科学論文で、最も重要な部分は、その研究の方法と結果が書かれている部分なのです。結論については、その論文の読者によって差が生じることは、十分にあり得るわけです。


 マスメディアが医学や栄養学を始めとする、自然科学の研究を報じるとき、その研究の方法や生データ(結果)は省略される場合が殆どであり、いきなり結論のみが伝えられます。もちろん、多くのマスメディアは、そのマスメディアの読者や視聴者をより少しでも惹き付けたい為に、結論を誇張し、わかりやすく魅力的な表現に直して報道するということが習慣化していると言っていいかもしれません。こういったマスメディアの習慣を解消させるには、読者や視聴者が既成大手マスメディアを一度見捨てる必要があるのかもしれません。


 現代における、個人のインテリジェンスを保つことの意義のひとつは、既成大手マスメディアが垂れ流す文脈から自由になることです。


これからの時代は、インテリの逆襲です。


 
 では、最後に宿題です。


「Aさん60歳は、高脂血症のためA病院から食事療法を指導され続けています。Aさんは今日病院で主治医から、食事療法をしていますが高脂血症が良くなっていません。高脂血症があると心臓の冠動脈の病気(心筋梗塞等)のリスクが上がるため、食事療法のみでなく高脂血症の薬を毎日飲んで下さいと言われました。また、最近の医学研究においても、この薬の予防効果には医学的根拠があることが証明されていると、Aさんは医師から説明を受けました。インターネットで調べると、その薬は心筋梗塞の予防薬として紹介されていました。でも、隣にすんでいるBさん60歳はB病院にかかっており、高脂血症が続いていますが、そのまま食事療法のみで薬は飲んでいません。ある日、二人は自分の病気について互いに話す機会があり、薬を飲んでいないBさんは、自分は心筋梗塞になるのだと落ち込んでしまいました。」

では、質問です。このまま、Aさんは食事療法と毎日の薬、一方Bさんは食事療法のみで、時が過ぎていくと仮定します。


最近の医学研究では、この薬の予防効果には医学的根拠があることが証明されていますが、この医学的根拠から考えた場合、


「6年後のAさんはどのぐらい安心なんでしょうか? 一方、6年後のBさんはどのくらい危険なんでしょうか?」


「二人が今後の6年間に、心臓の冠動脈の病気(心筋梗塞等)になる確率はどのくらいなのでしょうか?」


1)Aさん 0.008% Bさん  89%
2)Aさん 0.030% Bさん  56%
3)Aさん 0.060% Bさん  47%
4)Aさん 0.150% Bさん  23%
5)Aさん 1.700% Bさん 2.8%



 答えは、このブログの次回の記事にて、説明します。


 正解データは、最近の医学論文のデータをおおよそのレベルでもとにしています。


 では、また次回まで。